「捨てる」から「使い切る」への転換
捨てるモノを無くしていくということは、これまでの時代において重宝された大量生産・大量消費の考え方に、適応してきたこれまでの「ものづくり」の概念に逆行する行いだ。そう言われていた2000年代初頭に、私達はタオル製造における「捨てるモノを無くし、新たな価値を創造する」ための挑戦をスタートさせました。
これまでのタオル製造は、大量の化学薬剤や化石エネルギーを消費し、自然に害をもたらす様々な廃棄物を排出しながら、全人類で消費しきれないほど大量のタオルを生み出してきました。その結果として、タオルの生産地では河川が汚染し、土壌が汚染し、野生に生きる動植物たちの生態系も変えてしまったのです。
今こそ、ただの消費財として作られ、使われてきた「タオル」の概念を見直し、原点に立ち返って本質を見極め、これから本当に必要なタオルとはどのようなタオルであるのかを改めて定義していかなければならないと私たちは考えています。
言わば「理想のタオル」を定義していくためには、タオルを生み出す現場、そして人(職人)も、そうした理想のタオルを生み出す存在として進化し続けなければなりません。私たちは進化するために「何をすべきか」という問いを受け入れ、向き合うことで、その問いに立ち向かっていける。だからこそ、その先に「理想」の実現というゴールが待っていると感じるのです。
このページでは、「理想のタオル」を目指すために取り組んだ様々な挑戦の歴史を、このページタイトルにもなっているテーマに沿ってお話していきます。
- 「他人任せでは、本質は見えない。」タオルの一貫製造への決意
・スマイリーアースが一貫製造に拘った理由は、大きく分けると4つの理由が存在します。一つ目の理由としては、完全分業制で産地拡大を図ってきたタオル産業では、素材(綿やポリエステル)から最終のタオル製品になるまでに様々な工場(会社)を転々と移動し加工が施される。その間、工場から工場へ移動する車両の運搬により自然環境や人に良くない「廃棄ガス」が大量に排出されてしまうという点です。
2つ目の理由は、分業体制によるタオル生産が主流であるため、製品にならなくなった糸や生地が各工場から大量の廃棄物(捨てるゴミ)として多く排出されてしまう点です。4つ目に上げる理由は分業では他社に依存しなければならないということから、自分たちの理想を完全に実現することができない(無理をお願いできない)という点です。これら3つの理由を全て解決するための解決策として導き出した結論が一貫製造という答えでした。私たちは自社のみで1枚のタオルを製造できる一貫製造工場を、2007年に完成させました。
(撚糸紡績から仕上げ縫製までの加工を一つの工場で行うタオル工場は、国内ではスマイリーアースが唯一社となっている。)
- 不器用であるから、たった一つの素材にとことん向き合う。(単一の素材のみを原料として使用するタオルの一貫生産工場へ)
私たちが選んだ素材はウガンダ共和国で有機栽培されたオーガニックコットン。
農薬や化学肥料そして枯葉剤を使用して栽培される一般的な綿花と違い、無農薬・無化学肥料で栽培される有機栽培綿(オーガニックコットン)は、独自の個性を持っており、その個性を損ねないために、私たちは混ぜないという決断をしました。
「ウガンダオーガニックコットン完全100%」のタオル製造工場は唯一無二のタオル工場です。工場内に飛び交う風綿も、すべてウガンダオーガニックコットンであるため、工場で働く私達は、オーガニックコトン以外の風綿(ホコリ)を吸い込まなくて済みます。石油系の繊維(ナイロンやポリエステル)や染色された綿、オーガニックでは無い農薬や枯葉剤が散布された素材の風綿(ホコリ)は、私は危険だと思います。
働く人が安心できる現場だからこそ、タオル作りも楽しめます。そして安全なタオルをお客様へお届けできると私は確信しています。
タオルの織り工場では、「捨て耳の止め糸」と聞くと、大半がポリエステル糸を使用しています。しかし、このポリエステル糸は産業廃棄物となってしまいます。私たちはウガンダオーガニックコットン完全100%を謳っていることもあるのでウガンダオーガニックコットン糸を使います。それにより、産業廃棄物として廃棄していたモノが、再利用できる資源糸として生まれかえらせることができるようになりました。
資源糸の使い道は、この後紹介するバイオマスエネルギーへの転換のところでも触れていますが、有機物として間伐材と共に燃焼することで熱エネルギーとして利用できるシステムを工場内に構築することができました。また、2019年に導入した手織機での資源糸の再利用で、独自性の高い織物製品の開発を実現し、同年に導入したホランダビーター(繊維粉砕機)でタオル生産時に出る副産物(綿や糸)を砕きパルプ状にし、手漉きで紙を漉くことで、新たな新製品「綿漉紙(めんろくし)」を開発しました。
スマイリーアースは、ウガンダオーガニックコットン100%工場にしてきたことで、これまでのタオル工場の「廃棄物は出てしまう」という常識を完全に打破し、尚且つ単一素材と向き合い続ける中で、素材を資源として生かし切るというタオル製造現場の新たな循環システムを構築してきました。混ぜたり、付け加えたりする加工技術は日本の繊維業界の得意とする技術でした。しかし、混ぜれば良くなる。付け加えればより良くなるという価値観は、あくまでもその技術を開発してきた先人たちによって作られた価値観です。私たちは、そのような価値観が本当により良いものを生み出しているのか?という確認をしながら、たどり着いた答えが「いらないことを、しない。」という選択だったのです。あえて単一素材と向き合い、単一素材を追究する。そこから見えてきた可能性によって、私たちはこれまでのタオル製造の概念を根底から見直す視点を見出すことができました。
- 理想の石けんを手作りする決断
・窯炊きでの石けん製造は、多くの廃棄物(苛性ソーダを多く含む汚水)が出てしまう。更には高温で処理するため化石エネルギーに依存しなければならない。廃棄物や排気ガスが出てしまう作り方から、廃棄物や排気ガスが出ない作り方へ移行するためにスマイリーアースでは、窯炊き製法よりも時間がかかるコールドプロセス製法による石けんづくりを始めました。鹸化熟成期間は半年。自然の時間で完全に鹸化熟成された石けんには天然オイルに含まれる様々な有機成分が欠落せずに留まり、様々な付加価値を有する高級石鹸が出来上がります。コールドプロセス法による石けん作りの良いところは廃棄物(汚水)が出ないところです。スマイリーアースでは、そんな石けんをタオル製造に使用し、生態系に迷惑をかけず上質なタオルを作り出すという理想のタオル作りを忠実に守り続けています。
- 重油ボイラーから山の間伐材を利用するバイオマスエネルギーへの転換
・捨て耳、糸くず、綿くずを焼却し熱エネルギーとして利用することで、化石エネルギー使用時に排出してしまう廃棄ガスを削減し、またタオル製造工程内におけるオーガニックコットンの綿ゴミ(有機物)を間伐材と共にバイオマスボイラーで焼却することで、廃棄物を実質ゼロ化することに成功。更には山林管理と植林を通じてタオル製造時に排出するCO2量を山林が吸収するCO2量で相殺するカーボンニュートラルを実現したことで、地域の里山とタオル製造が共生する資源好循環エコシステムを構築。
- 工場排水を貯める貯水プールを作った目的
綿の処理加工や洗い加工、そして脱水工程から排出してしまうタオル工場の工場排水においては、2018年に特許を取得した独自技術「自浄清綿法」の開発により排水自体の無害化に成功。その排水の成分は、有機物を豊富に含んだ水であることから、その水で新たな可能性を生み出すため貯水プールを増設。元々用意していた貯水プールで、2017年からメダカやヌマエビの繁殖状況を観察し、2022年から増設貯水プールでウナギとホンモロコの天然養殖を開始。
タオルづくりから生まれる水で、水生生物が生きられる好適環境を作り出すことを実現したスマイリーアースは、オーガニックタオルとオーガニック養殖の掛け算で更に豊かな水資源の循環利用環境をタオル製造工場内に構築していきます。
- タオル工場横に温室ハウスを建てた理由
上記で説明した工場排水の利用を、農業でも取り組みたいという強い想いを募らせ、私たちは工場横に温室ハウスを完備しました。
2022年から、貯水プールに溜めた工場排水(有機水)でバナナの栽培研究に取り組んでいます。バナナは他の植物より肥料が大量に必要な植物です。そんな肥料食いの植物に対し、タオル工場の排水に含まれる有機物がどのように作用するのか可能性は高まるばかりです。
2023年10月に2022年に植えたバナナの苗にバナナの花が咲き、徐々にバナナができ始めました。
今後、温室ハウスの加温方法などを検討していくことで、1年中タオルを作りながらバナナ栽培を実施していくことが可能となるシステムを構築していくことができてくると考えておりますが、2023年を終えた時点でバナナ栽培との掛け算がベストかどうか、再度検討し温室ハウス内で何を栽培していくかを考えていきたいと思っています。
スマイリーアースが取り組んできた既存概念からの脱却化チャレンジとは、
タオル工場で「廃棄を無くし、新たな価値を創造する」という「理想のタオル工場」を作り出していく挑戦と言えます。
これまでのタオル製造やアパレル産業は、地球に返せない廃棄物や廃棄ガスを大量に生み出しながらタオルや繊維製品を生み出し、それも大量に作り過ぎてきました。
言わば、自然との共生ではなく自然や自然の浄化システムを知らぬうちに破壊しながら、人類の数よりも多い製品を生み出し、売れ残りは廃棄する非合理的な価値観を貫いてきた存在でありました。
スマイリーアースは、そんな存在(業界)に身を置き、様々な非合理的な惨劇を目の当たりにしてきたことで、自身の行いがいかに非合理的であったかということに気付かされてきまた。だからこそ自身の行いを違う角度から見直し、自らの足で新たな価値観(自然と共生するという合理的価値観)と向き合っていくための環境づくりを進めてきたと言えます。
私たちが考える合理的価値観を貫ける理想の存在とは、どのような存在であるか。それは、自身の取り組みが地域の自然の中(生態系)で行われている資源循環の一部として機能していく状態を作り出せる存在を示します。
言わば、自然との調和がとれた存在として、豊かな自然環境を保持するため、自然から託された役割や責任を果たせる。そんな理想的な存在です。
そのような理想の存在へと進化していくためには、廃棄物という概念を捨てなければなりません。廃棄ではなく資源として見直し、より良く生かしながら地球へ帰していける形「地球の浄化システムの内側」で、生きていくという選択を貫ける存在でなければ、そのような理想形への進化は始まらないと考えています。
だからこそ、スマイリーアースは独自のタオル製造の中で「廃棄」という概念を完全に取り除くための研究や技術革新を進め、未来に相応しい理想の存在へと進化していくための挑戦を続けていかなくてはならないのです。
自然と共に共生していくことができる存在へと進化を遂げていくために、私たちは挑戦を続けなければならないのです。