・気付きから見つけた目標。そして始まった前人未踏の挑戦
そうして、私たちは石油から生み出される化学物質や化学薬剤、とりわけ合成の界面活性剤に対する有効な解決策を見出すため、合成界面活性剤を使用しないタオルの生産プロセスを構築するための挑戦を進めてきました。一般的なタオル製造では、合成界面活性剤は様々な工程で使用されます。高速織機でタオルを織りあげるために必要不可欠な糸の毛羽の抑制と糸の強度を高めるための糊付け工程
(サイジング)でも、様々な能力をもった化学物質を糸へ付着させるため、様々な添加剤や助剤が利用されます。それらの添加剤や助剤を混ぜ合わせる際に必要な化学薬剤が合成界面活性剤です。また糊付けされた糸によって高速に織り上げられた織生地から、糊剤な
どを剥ぎ取り、また溶け落としていく工程でも合成界面活性剤が大量に必要になります。極めつけは綿に含まれる油分や不純物を取り除く「精練(せいれん)」という工程と、綿繊維にカラフルな色を染め上げていく染色工程です。この工程では、合成界面活性剤が大
量に必要で、現在では少量でも抜群の効力を発揮する最強とも謳われる合成界面活性剤が使用されています。効力の強い合成界面活性剤は、特に注意が必要で、取り扱いと処分方法には最大レベルの注意が求められます。理由としては、自然界での分解スピードが限りなく遅く、自然界の食物連鎖を通じて効力を落とさず効力が持続した状態で人体に忍び寄ってきてしまいます。効力を落とさぬまま人体に侵入すれば様々な問題を引き起こしかねない得体のしれない物質であるということは頭に入れておかなければなりません。私たちは、地球上の生命や生態系に大きな影響を及ぼしかねない合成界面活性剤は、この上之郷で使うべきではないと考え、上記で紹介したこれまでの一般的なタオル製造における合成界面活性剤への依存工程を見直し、それらを排除できる方法を考え、独自の研究によって、その解決策を見出してきました。まず、私たちの前に立ちはだかった大きな壁は、完全分業制が構築されていたタオルの生産プロセスです。一般的なタオル生産プロセスは完全分業体制が構築されていることから、この生産プロセスから完全に独立した形で、タオルを生み出していこうとすると、分業化していたタオル生産の全ての工程を、一つの工場の中に構築してしまうタオルの一貫生産工場を生み出すしか方法はありません。そのため、私たちはタオルの一貫生産工場の建設に着手し、2007年に国内では唯一無二のタオルの一貫生産工場を上之郷に完成させました。
私たちが完成させたタオルの一貫生産工場は、合成界面活性剤へ依存していた糊付け工程(サイジング)を、まずは生産プロセスから取り除くことに成功しました。しかし、一般的なタオル生産工程の中で一番、合成界面活性剤が使用される精練・染色・洗浄工程では、解決しなければならない課題が多数存在していました。まず、綿繊維から油分や不純物を取り除く方法(精練という工程)が、合成界面活性剤を使用することを大前提に生み出された方法であったことから、合成界面活性剤を使用しない製法(レシピ)が存在していなかったというところです。また、合成界面活性剤はタオル製品の品質において必須となっている吸水力の保持にも、大きな影響力を発揮するということも、私たちは独自の研究で解き明かしました。また同時に柔軟性を高める加工においても乳化剤という合成界面活性剤が必要不可欠であるということにも気付いてきた私たちは、タオル製造と合成界面活性剤との関係の根深さに対して「この関係性を引き離すことは無理かもしれない」と思わざるを得ない状況が続き、落胆してしまうこともしばしありました。しかし、私たちはそうした障壁をぶち破らないことには、地球の未来を救えない。下水がない上之郷の自然環境で一般的なタオルを作ることは不可能である事実を、坂下先生に突きつけられていたことで、これまでのタオル製造の常識を根底から見直すといった作業から研究を積み重ねることができたと今ではそのように思っています。