合成界面活性剤 脱却化チャレンジ

坂下栄先生が私達へ託してくれたこと
私たちが、坂下先生が書き残してくれた本と出合ったのは2007年のこと。当時、私たちはウガンダオーガニックコットンと出会って間がなく、ウガンダオーガニックコットンの魅力に魅せられ、その魅力を損ねずに向き合うためには、どうしたら良いか迷い、迷走していた時期でした。そんな時に、ふと坂下先生の本が目に留まり、私たちを今在る理想の形(Nature TowelFactory)へと導いて頂けたと、私たちは感じています。実際に会ったことは一度もありません。しかし、坂下先生は私たちの脳裏で常に私たちへ助言し続けてくれました。坂下先生が残してくれた本と出合わせて頂いてからの、私たちの技術革新は、まさに坂下先生と共に成し遂げてきた技術開発であり「地球の未来を残していくための技術基盤」として未来を生きる人々へ残していきたい技術遺産として、代々語り継いでいきたいと私たちは考えています。坂下先生から受け取った、現代を生きる私達への警告ともいえるメッセージ。合成界面活性剤の環境破壊と生態系汚染。その連鎖によって生まれる現代病。私たちは坂下先生が本の中で届けてくれた警告に向き合わなければならない事実を、その時突きつけられました。私たちは、合成界面活性剤を多量に使用する産業に生きてきた者として、坂下先生が熱心に訴えかけてくれた合成界面活性剤の生態系に対する影響力。また生態系の頂点に君臨する我々人類も例外ではなく、生態系における食物連鎖を通じて化学物質による生体汚染が舞い戻ってくる(生体濃縮による連鎖汚染)。そうした坂下先生の虚偽の無い真をつく警告が、私たちの心に突き刺さり、合成界面活性剤からの脱却への挑戦が始まりました。私たちの地元「上之郷(かみのごう)」には、下水が完備されていません。そのため、各家庭から排水される家庭廃水は、直接用水路を通じて河川を汚染してしまいます。そのため、上之郷地域では浄化槽を各家庭に設置し家庭廃水を、できる限り浄化し排水することが推奨されています。しかし、上之郷の全ての家庭廃水が浄化された形で用水路へ排水されているとは言い切れない事例も今現在でも多数存在しています。また、地場産業のタオル製造に欠かせない染工場や糸に糊付けを行うサイジング工場から産出してしまう産業廃水は、相当の廃水量であるため、全てを完全に浄化することは浄化槽の処理能力では不可能な数値です。そのため、私たちの地域では廃水が、そのまま直接用水路を通って河川に流れてしまっていました。農地においても、多種多量の農薬や化学肥料に加え除草剤などの危険な化学物質が、雨によって用水路へ流出し、河川や海洋を汚染してしまっていました。そのような背景から、泉佐野市内に流れる樫井川(上之郷地域は上流域)は1998年に日本ワーストワンの河川として環境省が実施した水質調査で明らかになり、泉佐野市内で農業や地場産業のタオル産業から排水される工業廃水及び農業廃水による環境リスクへの対策を考えていく機運が高まりました。しかし、上記のような環境汚染の歴史を経験した後も、上之郷には未だ下水が完備されておらず、現在においても環境汚染の根本的な原因を完全に取り除けずにあるというのが今現在の状態です。坂下先生が、私達へ届けた警告は、言わば下水が無く、対策が取られにくい田舎地域(ローカルエリア)である私たちの故郷「上之郷」へ届けられていたメッセージだったのではないかと感じざるを得ない状況が、私たちの目の前には、広がっていたのです。

坂下先生の書き残した本を読みあさるようになっていた私たちは、いつからか坂下先生の書き綴った言葉が、たびたび頭の中に出てくるようになり、技術開発の際の思考も坂下先生の言葉からヒントを得ようと、坂下先生の本を読み返しては、先生の心理へ近づこうと
先生の言葉を繰り返し探求することを重ねていました。繊維産業における合成界面活性剤の位置づけは、切っても切れない関係を長い産業史の中で作り上げてきていました。言わば、合成界面活性剤は「混じわることのない物質を混じ合わせる薬剤」油に水を溶かしこめる状態を作り出す薬剤とも言われ、まさに「魔法の薬剤」です。繊維・アパレル産業では染色や精練(繊維から油分などを取り除く工程)や、吸水力や香りなど、綿繊維自体がもっていいない付加機能を、その綿繊維に付加する際に合成界面活性剤が大量に使用
されます。
※抜群の吸水性を持つタオルは、まさにこの合成界面活性剤の恩恵をふんだんに受けた製品と言えます。
機能性の高い製品は、消費者に好まれます。しかし、それらを生み出す産地では少なからず合成界面活性剤による環境リスク(生態系へのリスク)や働く人々の人体へのリスクが高まってしまうことは否定できないのです。「安全」と言っても、その安全レベルがどのようなレベルかについては、科学者であってもそこに責任を持つことは決してできない。機能性向上の目的で生み出される様々な化学
物質は、ほとんど安全性については未解明な状態のまま使用され、問題が起きてから対策が取られるケースが多く、そういった負の連鎖を断ち切れない状態が、永遠に繰り返されてきてしまっています。そんな負の連鎖に終止符を打つためのヒントを私たちは、これまで散々栽培農地を農薬や化学肥料、そして除草剤や枯葉剤等で破壊しつくしてきた一般的な綿花栽培に終止符を打つ解決策として生み出された、有機栽培綿(オーガニックコットン)と出会い、またその栽培農地を訪れ、現地の有機農家との交流を図ってきた中で、オーガニックコットンが背負う大きな役割「地球の未来を変える役割」に気付き、またそうした役割を背負う原材料に対して、私たち製造工場がどのように向き合うべきかをウガンダオーガニックコットンが気付かせてくれました。また下水がない地元「上之郷」の環境で、タオル製造を行う際に、どのようにその環境と向き合うが正しいのかについて、私たちは坂下先生が綴られた本と出合えたことで気付かせて頂けたと感じています。まさに、オーガニックコットン製品の「本来あるべき姿」言わば理想の形を目指すための思考回路を、私たちは上記で触れてきたような「現代の世の中から生まれてきた、未来に向けた様々な警告に」耳を傾けるなかで、見出してくることができてきたのではないかと感じています。